――さて、いきなりだが。
この記事のタイトルは、「正確ではない」。
今回「やっぱり自分はメンタル探索モノが好きだなァ~ッ」と感じた上で、改めて「精神世界を探索するゲーム」を探したところ、かなりの確率で「ホラーゲーム」であることが多かった。
何者かの精神内や夢を探索するゲームは、「LSD」「ゆめにっき」「Layers of Fear」「Neverending Nightmares」「OMORI」……今この瞬間も開発・リリースされ続け、枚挙に暇がない。
そういったタイトルの多くは、夢(あるいは無意識)特有の、「不条理さ」や「異常さ」を孕んでおり、また、それらが受け手から求められ、評価される点でもある。
対して、「GARAGE -Bad Dream Adventure-」は、ある人物の深層意識から生み出された世界からの脱出を目的とするゲームだが、ホラーゲームではない。
これは作者自身が表明していることでもあり、最後までプレイした人ならば誰しもが抱く感想でもあるはずだ。世界全体に漂う質感、空気——それらは陰鬱で窮屈で異質ではあるが、きわめて理性的である。
これはなぜか?
答えは明確である、世界を構成する「秩序」が存在するからだ。
これを踏まえてより正確に表現するなら、私は「或る思想や価値観を基に再構成された、一見すると異常な世界を探索するゲーム」に興味があるのだろう。
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この微妙な差異にどんな意味があるのか。
答えを探してネットの海を漂っていたところ、こちらの記事を見つけた。
▼さよならを教えて(感想)_狂気とユーモアの境界が曖昧なノベルゲーム
私が「GARAGE」と同じく、「再構成された世界を探索するゲーム」として挙げたいタイトルについての感想である。
いわゆるエロゲーに属する18禁ノベルゲームだが、上記記事はエロ部分への言及はほぼない。ただしネタバレはある。以下に記す文章も同様。
以下、要点を引用する。
本作の主人公、人見広介(以下、親しみを込めて人見くん)がツッコミ不在でひたすらボケ倒しているゲームと捉えてプレイすると、かなり笑いどころが多い。
人見くんの現実認識は破綻していて滑稽だが、思考はだいたいにおいてはクリアであり、歪んではいるものの、独自のルールに沿って行動しているので筋が通っているから妙なリアリティがあるのだ。
さよならを教えて(感想)_狂気とユーモアの境界が曖昧なノベルゲーム
つまり、このゲームの内容は「狂気的」だが、その実「滑稽で」「笑える」ものであり、その「笑い」を構成する要素とは何かといえば、法則性のある「ずらし」(或いは「はずし」)である、という話である。
「ずらし」についての説明は、笑いやユーモアのテクニックとして散々使われている手法であるので、ここでは省く。
その代わり、本来の意味としての「ずれる」を辞書で引いてみる。以下抜粋。
「本来あるべき位置からはずれる」、「適正な範囲からはずれる」、類語として「異常」、「不条理」、「狂い」、etc...
要するに、この記事によって、「滑稽さ」と「狂気さ」の表現は本質的に同じものであるという事実が浮かび上がってきたのだ。
(そして私はその事実を、全くそれとは意識せずに反芻し、楽しんでいる。人見くんはかわいい)
では、この「滑稽」と「狂気」を分かつものは何か。
それは「受け手が理解できるものであるかどうか」であろう。
「どこがどこへどうずれているのか」を理解できる「安心できるずらし」には、「笑い」が。
「どこがどこへどうずれているのか」を理解できない「不安なずらし」には、「恐怖」が。
上記の記事で筆者が「人見くん」を「滑稽な存在として見れるようになった」のは、「ネタが割れている(=主人公の不可解な言動の理由が判明している)」からである。
しかし、ストーリーの核心となる部分が分からないプレイヤーにとっては、このゲームは変わらず、不気味で気持ちの悪い世界のままだ。
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「GARAGE」もまた同じである。
「何故機械なのか」「何故レールの上を走るのか」「何故汚水が」……散りばめられたあらゆる「何故」は、物語の終盤までわからない。
いや、この種明かし(のようなもの)は、今回の完全版で新しく追加されたパートだろう。完全版発売以前には、そのヒントすら作中にほとんど存在していなかったことになる。
辛うじてわかるのは、登場人物の名前が哲学者などから引用されていることくらいか。
種明かしがあるにせよないにせよ、とにかく「GARAGE」内の世界は、「或る思想や価値観を基にした」意図的な「ずらし」によって「世界が再構築」されている。その「ずらし」の内容は、始めは伏せられているが、進めるにつれ、この世界の歴史とともに明るみに出てくることになる。
その、ある種の「気づき」とも呼べる体験を通した前と後では、世界がまるで違って見えるのだ。無秩序で狂気的とも思えるデザインに、ある種の一貫性があるのだ、と。
プレイヤーはこの世界がこの世界たる理由に安心し、納得する。無知ゆえの恐怖から解放され、カタルシスを感じる。
そして思い直すことになる。
この狂気的な世界の持ち主は、理解でき、愛おしむことすらできる相手だと。
意思の疎通さえ躊躇うような精神病者のそれなどではなく、どこにでもいる、ちょっとばかりの不幸に見舞われた「普通の人」だったのだと。
この転換点を通過するのが、非常に気持ちいい。
その瞬間は、ただの無秩序さや狂気の上には成り立たない。
一枚の板から切り分けられたジグソーパズルがきれいに組みあがるように、為るべくして為るものでなければならないだからだ。
また、この「一見狂気的な世界」を「普通の人」が見ている世界だと「理解できてしまった」ことで、読み手は自らの常識への疑念を孕むことになる。
この倒錯的な感情にも、危うい魅力がある。
この、ともすれば糧にも毒にもなり得る、固定観念の崩壊は、まるで叙述トリックを用いたミステリーを読み終えたときのような感覚である。
世界は確かにそういう形をしていて、不気味で、おぞましく、じっとりとしていて、グロテスクなものだったのだと。自分たちもまたそこに生きているのだと。
だからこそ、抜け出さなければならない。
だからこそ、離れがたい。
葛藤しながらもプレイヤーは世界からの脱出を果たす。
その眼前に広がる光景は、ヤンもまた、プレイヤーと同じように、これまでの常識が崩壊した、ということの表れなのだろう、と思う。
ヤンとプレイヤーを別の人格として扱いながら、互いに近い感情を抱かせるラストシーンは、見事の一言である。
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始めにマイナスのイメージを抱かせておき、そこからプラスのイメージに好転させることで、より好感度が高まるという手法は、ストーリーテリングなどに於いてよく使われる手法であるが、「GARAGE」ではそういった小細工は使われていない。
というよりもむしろ、あの不気味で雑多な世界は、元々からしてある種の人間へ、憧憬や心地よさをもたらすものだ。
であるにも関わらず、作中のテキストはどこか不快感を煽る単語で彩られる。マイナスのイメージと傾けられていく。強制的にずらされていく。
前述の通り、種明かしのないズラしは恐怖である。
しかし人は、人は恐怖を、ありのままに恐怖として、理解できないものを、ありのままに理解できないものとして、ただ受け止めることもできる。
そんな安全性の担保された恐怖を、刺激的なエンターテイメントへと昇華さえする。「違和感」や「不安感」を唱えるだけで参加できる、気軽な娯楽へ。
「GARAGE」が「歪みゲー」として独り歩きした理由はここにある、と思っている。
完全版をプレイした感想として多く上がるのが「思ったよりも」であることは、作者自身のツイートからもわかる通り。
ビジュアルの不気味さとシナリオの不明瞭さだけが見つめられ、真っ当な評価がなされていない、というのが現状なのだろう。
完全版が出たこれから、この「巧みにずらされた」構成への再評価が進んでいくことを切に願う。
とりあえず私は旦那から「サイレントヒル」シリーズを勧められたので、まあそのうちにでもプレイしようと思う。
以下余談。
個人的に「GARAGE」に辿り着く前に経験した、自らの嗜好の手掛かりとなったタイトルについていくつかメモしておく。
これらについては改めてレビューや考察もしたいところではある。
- 「さよならを教えて」
三大電波ゲーとか言われてる18禁エロゲ。大まかな構成はGARAGEのそれと非常に酷似している。ただし主人公への共感度、物語の結末が向かう方向は逆方向に位置するものだろう。
作中での種明かしは、重大なようでいて、完全な理解には今一歩届かない。
- 「アルトネリコ」シリーズ
一部でなぜこれがエロゲではないのか疑わしいとさえ囁かれている、ギャルゲー要素の強い正統派SFファンタジーRPG(自己矛盾)。
ヒロインとの信頼関係を築くために行われるメインストーリーとは別のシナリオライン、「ダイブ」パートは、ヒロインの精神世界で繰り広げられる。ストーリー上では一個の人格であるヒロインに、敢えて多面性・多重性を持たせることで、プレイヤーがより深くヒロインを知り、愛おしめるようになる構成が魅力。
他の要素? まあ、うん……
- 「せがれいじり」
「ウゴウゴルーガ」などで活躍した故・秋元きつね氏が世に送り出してしまった、文字通りのバカゲー。
舞台は精神世界ではなく、世の中を誇張して描いた「セケン」。一見すると乱痴気騒ぎのそれだが、実は人間の成長と社会との関わりが極端にデフォルメされたもので、とても誠実に構成されているという、なんともとんでもない作品。
終盤にうっかり涙したやつは正直に手を挙げろ。私です。
- 「殺戮に至る病」
名作ADV「かまいたちの夜」の我孫子武丸が、かまいたち以前に発表した、叙述トリックを用いたミステリー小説の傑作。
冒頭において連続殺人犯であることが明かされる主人公・蒲生稔が、自らが凶行に走らずにはいられない理由を内省していくと共に、読者は小説世界のある構造の崩壊を目の当たりにすることになる。
真の狂人は、為したつもりになってるけど実は何も為せてないやつじゃないかってところが最高のお笑いポイント。
- 「P.N.03」
マイナータイトルのためEDのネタバレを堂々と書いてしまうが、このゲーム、なんと登場人物が一人しかいない。主人公の魅力だけですべてを牽引する。しかもアクションシューティング。
あらゆる部分が粗削りだが、とにかく主人公の造形だけはこだわり抜かれた作りになっており、プレイ後しばらく魅了されていたタイトルでもある。
- 「Limbo」&「INSIDE」
こちらは別ベクトルの作品。
恐怖が外的要因にあるなら、種明かしなしでも意外と!全然!どうでもいいんだな!おもしろかったぜ!終わり!(考察はできるけどな!)ってなれるパターンの方の、インディ発のアクションパズルゲーム。
- 「Bloodborne」
最近「ELDEN RING」でバカ売れのフロムソフトウェアが、PS4時代に出したゴシックホラーアクションと見せかけて実は違ったアレ。こちらも別ベクトル。
多くは語らないストーリーテリングが、世界に何が起こったのかをプレイヤーに想像させ、惹きつける。極一部の事実を除いて、作中で種明かしがされることはほぼない。これは作品の大きな魅力であり欠点でもあるが、アクションゲームとして非常に優秀なので、その辺がごっちゃにされて評価されてると思ってる。
あ、「もしかしてこれ好きかもよ!?」って感じるタイトルあったら是非教えてくだちい。よろしくお願いします。
2022/05/23 追記・修正